
ユニバーサルデザインという言葉が広まり、駅や公共施設、商業施設などでも、高齢の方や障害のある方、小さな子ども連れの方など、さまざまな立場の人にとって使いやすい設備が増えてきました。
駅にはエレベーターが設置され、多目的トイレの整備も進み、段差のある場所にはスロープが設けられています。
こうした設備は、多くの人にとって移動しやすい環境をつくるうえで、大切な役割を果たしています。
私自身も車椅子を使って生活しており、外出先の選択肢が広がっていることを感じています。
ただ、ユニバーサルデザインの広がりのなかで、「誰でも使える」ことが当たり前になってきたからこそ、少し気になることがあります。
駅のエレベーター、車椅子利用者にとっては唯一の移動手段
たとえば駅のエレベーター。
荷物を持っているときや、ベビーカーを使っているとき、体調がすぐれないときなどは、階段よりエレベーターがあることで負担が減り、とても助かると思います。
一方で、車椅子ユーザーにとってエレベーターは、階を移動するための不可欠な手段です。
ただ、利用者が多い時間帯には、エレベーターがあってもすぐには使えないことがあります。
混雑の中で何本も見送ることもあります。
段差を越えるためのスロープも、状況によっては通りにくくなることがあります。
人の流れが重なると、車椅子では進めなくなってしまうこともあります。
多目的トイレの使用にも思うこと
トイレについても、似たようなことがあります。
多目的トイレは「誰でも使える」ことを前提とした設備です。 一方で、車椅子ユーザーにとっては、通常の個室ではスペースが確保できないため、多目的トイレが唯一の選択肢になります。
また、身体状況によっては、トイレを長く我慢することが難しい場合もあります。
設備が空いていなければ、次の場所に移動しなければなりません。
物理的にも精神的にも負担が大きくなるケースがあります。
健常者だったら、気づけなかったかもしれない
多目的トイレや駅のエレベーターは、「誰でも使える」ことを前提に整備されています。
ただ、実際には、「それ以外に選択肢がない人」が一定数いる、という事実は、日常の中で見えづらくなっています。
車椅子で生活していると、「そこが使えなければ移動や排泄ができない」という場面に日常的に直面します。
一方で、多くの人にとっては、「空いていれば使ってよいもの」として自然に扱われている設備でもあります。
その前提の違いが、共有される機会はあまりありません。
私も、もし障害当事者でなければ、気づけなかったかもしれません。
小さな気づきが、より良い環境につながっていく
ユニバーサルデザインは、年齢や障害の有無にかかわらず、できるだけ多くの人が利用できるように――そんな考え方から生まれ、さまざまな場所で取り入れられるようになってきました。
どんな設備を、どんなときに必要とするかは、人それぞれです。
身体の状態や体調、一時的な状況など、外からは見えにくい事情も多くあります。
自分には見えていなかった前提に気づいたり、「ここしか選べない人もいるのかもしれない」と想像したり。
そうした小さな気づきが、次の選択や行動に影響を与えることがあります。
誰かが譲る、誰かが遠慮する―という構図だけではなく、さまざまな立場や背景があることが、ゆるやかに共有されていくこと。
その積み重ねが、誰もが使いやすい設備、過ごしやすい日常につながっていくのかもしれません。